02 お前には無理だ

 少年のプロレス好きは完全に父親の影響だった。少年の父は、プロレスを愛していた。
 少年は幼い頃から、父のヒザの上でプロレス中継を見させたれていた。見ていたのではなく、見させられていたと言ったほうが正確だ。そして、二言目にはこう言われていた。
「お前は、大きくなったらプロレスラーになるんだぞ!」
 少し体が出来てきたら、父に冗談でプロレス技をかけられたり、特訓と称して近所の公園まで往復で走らされたり、ストレッチのようなものもやらされたのを思い出す。機嫌が悪い時は抵抗もしたが、そうすると容赦のない鉄拳制裁が待っていた。少年が泣いても父からは
「今のうちに鍛えておけ。いずれ役に立つ」
 なんて怒鳴られたりもした。
 そんなときは、必ずと言っていいほど父にはお酒が入っていた。というより、父は酒を飲まない日のほうが珍しいくらいだった。酒癖は最悪、近所で揉め事を起こすことも一度や二度ではなかった。だから少年は酒もプロレスも大嫌いだった。
 それでも、嫌いなプロレス中継を見ていた理由は、父のヒザの上が心地よかったからかも知れない。ヒザの上に載せてもらえるのはプロレス中継のときだけだったからだ。
 そんな少年も成長すると、プロレス中継を自主的に見るようになってきた。成長してヒザの上には座らなくなってもだ。小さな部屋の隅で、父からは距離を取り、じっくり見るプロレス。思いの外面白かった。だんだん、少年の中に一つの将来の目標のようなものが育ち始めていた。
 そんな思いを、ある日父親打ち明けてみた。
「ねえ、オレもプロレスラーになりたいんだ」
 しかし、その直後の父の言葉は少年を深く傷つけることになる。
「おまえ、ちびだろ、無理無理」
 改めて考えてみる。小学校低学年のときは、前ならえができない時もあった。今でも全体の前の方に並んでいた。
「でも・・・これから伸びるよ!」
「バカ言うな、父ちゃんだって、母ちゃんだって、背はこれくらいだろ。親戚にだってでかいやつがいないんだ。お前も同じだ。無理を言うな」
「じゃあなんで、大きくなったらプロレスラーになれなんて言ったんだよ!」
「なれたらいいなあ、と思っちゃダメか?ウルトラマンになりたいって言ってる友だちがいるって話してたろお前も。それと同じだ。本気にしてんじゃない」
 いい加減な父だった。昔からこんな具合だ。
「でも・・・鍛えたらわからないよ・・・」
「身長は、無理だと言ってるだろ」
「・・・」

この記事へのコメント