04 田舎のプロレスと都会のプロレス

 広場につくと、すでにリングは設営され、椅子も並べられていた。その周りには近所の人たちで満員御礼上体だった。照明も用意され、リングもライトアップされている。
 パンフレットには、この日に行われる6試合のカードがスタンプで押されていた。
 メインイベントは、6人タッグだ。
「なんだ、6人タッグか・・・つまらねえな」
 と父親は、ぶっきらぼうに言った。
 メインイベントの試合は場外乱闘がほとんどで10分足らずで終了だった。両軍ともに20カウント以内にリングに戻れず、両者リングアウトの引き分け決着。
「いなかの興行だと思って、手ぇ抜きやがったな」
 と父親がふてくされたように言ってた・
「やっぱりよお、テレビの時と違って適当にながしやがった。東京にでも行って、ちゃんとした試合を見てえもんだよなあ」
「え?東京の試合は違うの?」
 少年は驚いたように聞いた
「東京の試合は、テレビ中継があるだろ。そりゃそっちのほうが面白いに決まってるだろ」
「でも、テレビと同じだったよ。知ってる選手ばっかりで、場外乱闘でこっちの近くで椅子振り上げたときなんか怖いくらいだったよー」
 少年は、初めて見る生のプロレスに大興奮だった。そこから更にプロレスの魅力に取り憑かれることになった。
 その少年が今日、初めて東京のプロレスを生観戦できる。
 きっかけは、東京に住む叔父からの手紙だった。
「お前も中学に進学するんなら、何かプレゼントしてやる。春休みに東京見物なんてどうだ?」
 そんな文章が書かれていた。
 少年は大慌てで近所の商店街にある本屋に駆け込み、プロレス雑誌で日程を調べた。
 春休みの3月28日に後楽園ホールで、リーグ戦の開幕戦があるではないか。これを見たい!
「何いってんの、文房具の一つでも買ってもらいなさい。そっちのほうが役に立つわよ」
 母親は、顔をしかめた。
「それに、プロレスなら、年に1回くらいここで見られるでしょ。わざわざ東京に行ってまでねえ・・・」
「でも、東京のプロレスが見たいんだよ」
「どこだって同じでしょうが!」
「違う・・・って父ちゃん言ってた!」
 父親のことを引き合いに出せば、ひょっとしたらなんとかなるかもしれない・・・少年はかすかな望みに賭けてみた。
「・・・どう違うのよ?」
「わかんない・・・けど だからちゃんと自分で見てみたいんだ」
 本当にわからなかった。ただ、あの何気ない父親の一言が妙に耳に残っていた。
「わかったわ・・・オジサンに電話してみなさい」
 結局母親は承諾してくれた。
 少年の夢は叶ったのだ。
 ひとりでやってきた東京。
 母親は大分で待っている。父親は、もうこの世にはいなかった。肝臓ガンだった。

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